寒い国から帰ってきたスパイ

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)All Rights Reserved.

1963年に英国で出版されたジョン・ル・カレの小説である。
初めて氏の小説を読んだ。
必要以上に興味深かった。
ハヤカワ文庫の宇野利泰氏の和訳の物である。

手島龍一氏のある短い文章に
物語の主人公アレック・リーマス(英国の諜報部員)の
「魂」は未だに昇天出来ずにあの凍土に彷徨っているのでは?
と記されていた。
「全くその通りだろうな」と、僕は手放しで思った。
やっぱり「書く」という事をお仕事とされている方の
表現は凄いなと、思い、感心させられるのだ。

冷戦が終結して20年近い年月を経て僕はこの小説を手にした。
冷戦の緊張度のおそらく、かなり高かった頃に執筆され
出版されたであろう「フィクション」とは感じるが、
もう一度思いを巡らされれば
更に彼の「魂」の行方が気になるのである。
世界の均衡は時を経て変わる物であるのだろうが・・・。

終盤、査問会に証人として立たされてからの
リズ(英国共産党党員)の発せられる言葉は痛い。
その痛さを誰よりも理解していたのはリーマスだろう。
しかし、その痛みを自分自身の内側に留めて置いては
彼の様な職務に携わる方々は日々を過ごせなくなるのでは
ないのだろうか?忘れる様に努力し、無関心を装い、
世間とは別種の人間だと、自分自身に言い聞かせるしか
方法が無いのだろう。

彼は「虚無」を「己の気持ち」の置き所としていないと
辛すぎるのではないのだろうか?
彼が壁の上から掴みたかった物は
一人の女の子の腕だけだったのだろうか?
2,3日前の「虹」は久し振りに見たせいかとても良かった。

先々月に映画館で観た
「ヤング@ハート」(07・英・スティーブン・ウォーカー監督)
に出ていたあの92歳のおばあちゃんが作品の中で
「私が死んでいなくなっても虹に腰かけあなた達をみつめている」
と、言っていた。作品が良かったので「腰かけてんのかな?」とか思って
虹をマジマジと僕は見つめていた。

「腰かけている姿」を僕は目にする事ができなかった。
当ったり前である。
でも、この程度の妄想は許されても良いだろう。
COLD PLAYの「FIX YOU」を聞きながら、でした。